第11話は、穏やかな新婚生活の裏で、静かに運命の歯車がずれ始めた回だった。
高石あかりさん演じるトキの笑顔があたたかいほど、これから訪れる別れの予感が濃くなる。
「ばけばけ」は、“愛しい日常ほど儚い”という朝ドラらしさと、“怪談のような不穏さ”が同居している。
トキ(高石あかり)と銀二郎の“慎ましい幸せ”が胸にしみる
お見合いがうまくいき、ようやく幸せをつかんだトキ(高石あかりさん)。
銀二郎(演・中村蒼さん)との新婚生活は、静かで優しい。
仕事を終え、夜に布団を並べて怪談話を聞く──そんな日常が、まるで宝石のように描かれる。
“貧しくても心は豊か”という王道の描写なのに、どこか切ない。
高石あかりさんの自然な笑顔が、幸福と儚さの境界を柔らかく演じていた。
借金取り・森山善太郎の登場で空気が一変
物語が急に重くなるのは、森山(岩谷健司さん)が松野家にやってくる場面から。
働き者の銀二郎が一生懸命稼いでも、そのお金がすべて持っていかれる。
その瞬間、トキの夢のような生活が一気に現実に引き戻された。
借金という“見えない鎖”が、家族をじわじわと締めつけていく描写がリアル。
銀二郎が「だったら、仕事を増やした方がええですかね?」と笑って言う姿が痛々しいほど健気だった。
彼の言葉の裏に、“限界を悟っているような静けさ”がある。
雨清水家の出奔、広がる“不穏の連鎖”
一方で、雨清水傳(堤真一さん)の家でも異変が。
長男・氏松(安田啓人さん)が借金を残して姿を消す。
「家を背負う責任」という重荷に押し潰される姿が、まるで銀二郎の未来を暗示しているようだった。
タエ(北川景子さん)の「氏松ひとりが責め負うことでもなかろうに」というセリフが、
“時代に飲み込まれる個人”の悲しみを代弁しているようで胸が詰まった。
“ヘブン”との未来を知っているからこそ、今が切ない
視聴者は知っている。
トキの最終的な伴侶は外国人のヘブン(トミー・バストウさん)であることを。
だからこそ、銀二郎(中村蒼さん)との穏やかな時間が、すべて“別れへの序章”に見えてしまう。
朝ドラ特有の“未来がわかっている悲しさ”が、じわじわと効いてくる。
SNSでも「銀二郎にフラグ立ちすぎ」「出奔しそう」「幸せなときほど怖い」といった声が相次いだ。
この静かな不安感が、『ばけばけ』というタイトルの“ばける(変わる)”を象徴しているようだ。
高石あかりさんの“静の芝居”が光る
高石あかりさんのトキは、強くも脆く、希望と諦めの狭間に立っている。
悲劇を予感していながらも、どこか前を向いてしまう女性。
彼女が笑うたびに、「どうかこの時間が続いて」と願いたくなる。
そして、その笑顔が次の瞬間に崩れるのではないかと怖くなる。
“幸せを描きながら不安を積み上げる”この演出は、朝ドラの新しい形かもしれない。
まとめ
第11話は、“幸せの裏に忍び寄る影”が静かに迫る回だった。
銀二郎(中村蒼さん)の誠実さ、氏松の出奔、借金という現実──
すべてがトキ(高石あかりさん)を次の運命へ導いているように見える。
朝ドラらしい“家族の温もり”と、“時代の残酷さ”のバランスが絶妙だった。
これから銀二郎に何が起こるのか、見守るのが怖くもあり、楽しみでもある。
(ちーず姫)