最初の10分で完全に掴まれた。
妻夫木聡さんの表情の奥にある“迷い”が、静かな迫力を持って押し寄せてくる。
そして佐藤浩市さんが登場した瞬間、空気が変わった。
声の重さ、言葉の間、ひとつひとつが物語そのもの。
THE・日曜劇場の香りが全開で、久々に“王道”の力を感じた。
栗須栄治(妻夫木聡さん)、理想と現実の狭間で
税理士として真面目に積み重ねてきたのに、気づけば夢も情熱も薄れていた栗須(妻夫木聡さん)。
父に憧れて選んだ道なのに、いつの間にか“数字を追うだけの仕事”になってしまっていた。
そんな彼がロイヤルヒューマン社の依頼で競馬事業部を調査するというのが皮肉で切ない。
冷たい書類の世界から、泥の匂いがする牧場の世界へ。
そのギャップに立ちすくむ姿がリアルだった。
スーツのまま北海道の風に吹かれる栗須が、最初は異物みたいで、でもどこか懐かしい人間らしさを思い出していく感じ。
妻夫木さんの“沈黙の芝居”が、静かな叫びに聞こえた。
山王耕造(佐藤浩市さん)の言葉が骨に染みる
耕造(佐藤浩市さん)は、一見すると豪快でわがままな馬主。
でもその裏にある“信念”が、言葉の端々ににじむ。
「馬の価値は金額か。それとも戦績か。俺はそれだけじゃないと思うよ。」
このセリフ、まるで人間そのものに向けたメッセージみたいだった。
金や数字で判断される世の中で、何を信じて生きるか。
耕造の目には、勝負より“命”を見ている優しさがあった。
佐藤浩市さんの低い声が、牧場の風と混ざって耳に残る。
説教でも名言でもなく、ただの“真実”として響いた。
イザーニャとの出会い、静かな奇跡
栗須(妻夫木聡さん)がイザーニャに初めて触れるシーン。
泥にまみれたその馬に、彼自身の姿が重なって見えた。
誰からも選ばれず、価値がないと思われていた存在。
でも耕造(佐藤浩市さん)は迷いなく「買う」と言う。
「よかったな、イザーニャ。この先生も、お前の仲間だからな。」
その一言で、すべてが変わった。
数字の中で生きてきた栗須が、初めて“心”で何かを感じる瞬間。
派手な演出もBGMもいらない、たった数秒の沈黙が深くて温かい。
競馬×人間ドラマ、“走る理由”の物語
競馬と聞くと“ギャンブル”の印象が強いけど、この作品はまったく違う。
馬を通して、人がどう生きるか、どう信じるかを描いている。
馬の疾走が、人の人生の比喩みたいに見えてくる。
一頭一頭に物語があり、そこに関わる人の想いが重なっていく。
栗須(妻夫木聡さん)が再び夢を取り戻すプロセスも、この“走る世界”の中でゆっくり育っていくんだと思う。
見ているうちに、競馬が“生き方そのもの”に見えてくる不思議なドラマ。
SNSでも「これぞ日曜劇場」と話題に
放送直後、SNSは「これぞ日曜劇場!」の声で溢れてた。
「競馬が題材なのに感動して泣いた」「ギャンブルじゃなく人のドラマだった」ってコメントが多くて、共感しかない。
派手な演出もないのに、会話の一つ一つが心に刺さる。
耕造(佐藤浩市さん)の“背中で語る演技”と、栗須(妻夫木聡さん)の“沈黙で泣く演技”。
その対比が見事すぎた。
まさに、日曜の夜にふさわしい“静かな熱量”の物語。
まとめ
第1話は、“数字では測れない価値”を描く原点回帰のヒューマンドラマだった。
妻夫木聡さんの繊細な感情表現、佐藤浩市さんの重厚な存在感。
ふたりの出会いが、人生を変える序章として完璧。
イザーニャとの触れ合いが、今後のすべてを象徴していた気がする。
人の価値も、夢の価値も、結局は“誰かの想い”で決まる。
そんな当たり前を思い出させてくれた第1話だった。
(みかんてぃ)