「逃げる」と「向き合う」が同時に動き出した夜
第5話では、社長令嬢・八神結以(桜田ひより)と誘拐犯・林田大介(佐野勇斗)が逃亡を続ける中で、典型的な“逃げる側/追う側”の構図が一気に揺らぎました。
大介の元恋人・莉里(影山優佳)を巻き込みつつ、恩師・斎藤丈治(飯田基祐)の死という“過去の因縁”が表面化します。そして、父・八神慶志(北村一輝)との記者会見での呼びかけ──それは「取引」の始まりであると同時に、「対話」の可能性を孕んでいました。
逃亡劇という枠組みを超えて、誰かを“返す”こと、誰かに“出会う”ことが、登場人物にとってのターニングポイントになっていたのだと感じます。
良かったこと
「最期のお別れ作戦」の緊迫感と感情の深さ
タイムリミット30秒で葬儀に潜入するという設定が非常に効果的でした。逃亡中のハチ(結以)とリンダ(大介)を、ガン(志田未来)が援護しながらも犠牲になるという展開が、サスペンスとしてだけでなく“決別”としても胸を打ちました。
この30秒の中には、逃げ続けることへの疲れ、守りたいという願い、そしてその先にあるかもしれない“贖罪”や“赦し”が交錯していました。
父と娘の対話、問い直される“家族”という絆
「パパ、私を殺そうとしたよね?」というハチの問いかけが、物語に深い影を落としました。逃げる理由、信じる理由、そのどちらもが“父親”という最も近しい存在と向き合うことによって明らかになっていきます。
血のつながりが安心にも呪縛にもなり得ることを、視聴者に強く突きつける回でした。
気になった・もう少し掘り下げてほしかった部分
逃亡のリアル・背景説明の薄さ
劇中、斎藤丈治の娘の死と八神製薬への復讐という大きな背景が提示されましたが、「なぜ今このタイミングで」「なぜ結以が巻き込まれたのか」の因果がまだ曖昧に感じられました。
逃亡劇としてのスリルが一方で優先され、「なぜそうなったか」の解像度が少し控えめに感じたので、次回あたりで補完されることを期待します。
追う側・逃げる側双方の動きが駆け足だった印象
父・慶志の会見、葬儀への潜入、捕まりそうになるガン…など、見せ場は多くありましたが、それぞれの場面が駆け足気味で「もう少し余韻を感じたかった」と思う瞬間がありました。
特に、ガンを助けようとする大介の心理や、その後のリンダとハチの関係変化について、もう少し丁寧に描かれていても良かったかな、と思います。
感想まとめ
第5話は、逃亡劇のスリルだけではなく、「逃げ続ける意味」「赦されるということ」「血の繋がりがもたらす影」など、テーマがぐっと深まった回でした。ハチと大介、ガン、莉里、父・慶志…それぞれが“何を守るか”“何を捨てるか”を問われる瞬間に立たされていました。
特に、逃亡を続ける中で敢えて“向き合う”ことを選び始めた登場人物たちの姿が、物語に新たな厚みをもたらしていました。
ただし、次回に向けて明らかにすべき謎が多数残っており、「なぜこんな状況に至ったのか」「このまま逃げ切れるのか/逃げる必要があるのか」という問いが視聴者心に残ります。
今後への期待と考察
注目したいのは、斎藤丈治の死の背景とその“復讐”構図の全貌、そして父・慶志と結以の関係の再構築です。加えて、ガンの逮捕が物語の転換点になる可能性が高く、彼女が“裏切り者”になるのか、それとも“贖罪者”として物語を動かす鍵となるのかにも注目です。
また、逃亡とは別に“救い”というテーマが顔を出し始めたこの作品で、次回は「捕まる=終わり」ではなく「出会う=始まり」という構図が何を示すのかも気になります。
このドラマは、単なる誘拐サスペンスではなく、「誰が逃げるのか」「誰が許すのか」「誰と向き合うのか」を問う人間ドラマでもあると感じました。第5話は、その問いを強く刻んだ非常に印象的な回でした。
(あいちゃん)

