山の聖域で崩れた信頼
第3話を観て最も衝撃的だったのは、山岳救助隊という“命を守る現場”で、まさかの殺人事件の可能性が浮上するという展開です。冒頭、動画配信者・樋口結花(清水くるみ)が遭難し意識不明となった場面。彼女を助けに行った隊員・土門翔(羽谷勝太)が滑落死と思われたものの、司法解剖の結果「殴打痕」や「携帯電話の行方不明」という不穏な事実が明かされます。
この救助現場を率いていたのが“山の神”と呼ばれた布施正義(戸次重幸)──だが、その完璧すぎるイメージと供述の整い具合が、逆に有希子(天海祐希)の警戒を呼び覚まします。
良かったこと
“英雄”の影に潜む弱さの描写
布施正義はこれまで多数の命を救ってきた伝説の隊長。だが今回、彼の「眠れたか?」というごく普通の問いに見せた“凍りつく表情”が、事件の鍵になった点が秀逸でした。彼は“眠ることすら許されない神”の立場にいたのかもしれません。
山の厳しさ、命の現場の緊張感、救助活動の重圧をまとった布施というキャラクターが、「神」を演じながらも破綻へと向かう様が丁寧に描かれていました。
取調室の心理戦と取調官・有希子の鋭さ
“証言が完璧すぎる”という状況を前に、有希子の「眠ってしまったのでは?」という問いが象徴的でした。犯罪捜査ドラマながら、暴力的な追及ではなく、観察と問いかけで事実を引き出していく手法が際立っていました。
取調室という空間が、ただ“捜査の場”ではなく“人間の弱さと向き合う場”として機能していたことが、このエピソードの魅力の一つです。
気になった・もう少し欲しかった部分
動機・背景の掘り下げにもう一歩
事件の発端や布施・土門・結花・近藤(永田崇人)それぞれの関係性には驚きがありましたが、なぜその舞台で「殴打」が起こり、「携帯が消えた」のかという背景にもう少し肉付けが欲しかったという印象があります。
完璧に見える“英雄”の崩れ方自体に強いインパクトがあった反面、視聴者としては「なぜこの段階で?」という疑問が残ったのも確かです。
舞台設定の過酷さとミステリーのバランス
山での救助現場というスケールの大きな舞台が、ドラマに重厚感を与えているのは間違いないですが、あまりにも設定が張り詰めすぎていて、視聴者が追いつくのにやや負荷を感じる場面もありました。もう少し“視覚的な余白”や“内面の静けさ”が挿入されていれば、緊張の持続と緩和のバランスがさらに良くなったかもしれません。
感想まとめ
第3話は、“命を守る立場”にいる人の弱さと、“神格化された存在”が一瞬で人間に戻る瞬間の痛みを描いた回だったと思います。
布施が「神」であることに縛られたからこそ、眠るというごく普通の行為すら許されず、その“隙”が悲劇を呼んだ。
有希子らキントリの調べは、真犯人を突き止めるというよりも、「守る者が守れなかった時、何が壊れるか」を静かに暴いていました。
命を守る山の頂の冷たさ、吹き抜ける風に混じる鳥の声、誰もが背負う責任と限界――そのすべてがこのエピソードの中で交錯していました。
今後への期待と考察
これから注目したいのは、近藤の“アプリ収益”という動画配信者・結花との金銭的な関係、そして土門・布施・隊員たちの関係性です。なぜ携帯が消えたのか、なぜ殴打痕があったのか、そして“神の眠り”が誰の目にどう映ったのか。
取調室での問いかけ「よく眠れましたか?」のように、これからも“普通の問い”が大きな鍵になる展開になりそうです。
このドラマが単なる事件解決劇ではなく、「誰が守る側になっても守れないものがある」という問いを投げかけていることを感じます。次回以降、少しずつ明らかになる背景に、ぜひ目を離さず観ていきたいと思います。
(あいちゃん)

