介護スナックベルサイユ 第5話 感想文(ネタバレがあります)― “会いたい”を抱えて集う夜と、静かに動き出す人生の時間

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静かな嵐の夜:戻る場所と去るべき場所の狭間で

第5話では、ママ・上杉まりえ(宮崎美子)に誘われて「ベルサイユ」で寝泊まりすることになった神代大輝(杢代和人)が、闇バイト仲間からの脅迫を受けて一度は店を去ろうとしますが、なぜか戻ってくるという状況が描かれます。戻る場所としての店、去るべきかどうか悩む若者――その揺れ動きがとても胸に響きました。
その夜、「最期に会いたい人に会える魔法のワイン」を求めて来店する客たちのエピソードが重なり、静かではあるけれど確かな “人生の時間の動き” が画面に刻まれていました。

良かったこと

人生の“切なさ”を包むエピソードの丁寧さ

会社をリストラされた音無静夫(田山涼成)が切望する「会いたい人」が思いもよらぬ人物だったという展開は、予想を超える感情の揺さぶりを生みました。そして、夫を亡くしたばかりの梅原絹江(樫山文枝)と陶芸家・滝内遊山(麿赤兒)の“秘められた想い”が最後に静かに明かされる流れも、ドラマとしての深みを感じさせました。
このドラマの魅力のひとつである「魔法のワイン」というファンタジー的要素が、見せかけではなく“後悔・願い・解放”という本質に繋がっていたのが、とても良かったです。

“戻る”意味、“去る”意味を映す若者の物語

大輝の“戻ってきてしまう”選択、その背景にある無言の葛藤が、小さくも確かな影を落としていました。闇バイトという危うさ、若さゆえの迷い、そして店という“もう一つの居場所”。そこにいることで思い出す過去、逃げることで浮かび上がる未来――この三角関係が自然に描かれていて、登場人物の厚みを感じました。

気になった・もう少し欲しかった部分

大輝の内面の動きがもっと深く描かれてほしかった

彼が戻ってきた“理由”は画面から伝わりましたが、観る側として「なぜ戻るのか」「どう戻る決断をしたのか」の内側がもう少し丁寧に見たかったと思います。彼の選択が自然に感じられつつも、観客として納得できるほどの内的変化がもう一歩あると、より心に残ったかもしれません。

音無・絹江の物語が並行して進む中での構成の強さゆえに…

二組の客の人生がそれぞれ深く描かれており、それは素晴らしいのですが、その分ドラマの中心軸である店と大輝の物語とのバランスが少し揺れた印象もあります。もう少し店という舞台での“共通テーマ”を強調しても良かったかもしれません。

感想まとめ

第5話は、「戻ること」「去ること」「会いたいという願い」が交差する夜でした。
大輝という若者の揺れ動きと、人生の終盤に“もう一度会いたい”という願いを抱えるふたりの老齢の客。その対比が、このエピソードをただの優しいドラマではなく、人生の波を感じさせる作品にしていました。
「魔法のワイン」という象徴的なモチーフが、単なる演出ではなく、登場人物たちの“言えなかったこと”“許せなかったこと”“もう一度だけ問いかけたいこと”をつなぐ橋になっていたと感じます。

今後への期待と考察

このドラマで注目したいのは、大輝がこの店でどう“変わる”のか、そして店を訪れる客たちがそれぞれの願いをどう昇華させていくのかです。
大輝が抱えている過去――闇バイト、逃げたい気持ち、居場所を求める不安――それを店という環境がどう反映していくか。さらに、ママ・上杉まりえという存在が“許される場所”として機能するのかどうかも重要なポイントです。
また、音無や絹江のような客の物語がどのように店のテーマ「人生の最期に会いたい人」に寄り添い、影響を与えていくのか。
この第5話は、その大きな流れの中で確かな転機を迎えていた回だったと思います。
(あいちゃん)