女中になるという決意と、その裏にある葛藤
第31回では、トキ(髙石あかり)がついに トミー・バストウ 演じるヘブンの女中になるため、紹介者である錦織(吉沢亮)立ち会いのもと挨拶に向かいます。ところがヘブンは「アナタ、ブシムスメ、チガウ!」と拒絶し、トキと錦織を面食らわせる展開に。トキは家族を支えたいという強い思いから決意したのですが、その道は想像以上に険しいものでした。
最終的には採用となり給金「20円」が提示されますが、トキは家族にその事実を言えず「花田旅館で働くことになった」と嘘をつき、またその給金の一部を用いて三之丞(板垣李光人)へ「伝おじ様から預かったお金だ」と偽って渡すという、嘘の連鎖が生まれます。
良かったこと
トキの覚悟と“身分”にまつわる痛みの描写
「士族の娘でなければならない」というヘブンの価値観と、トキが置かれた没落士族の状況が鋭くぶつかり合う場面が強く印象に残りました。ヘブンから「腕、太い。足、太い。シゾク、チガウ」と言われるトキの表情の変化は、そのまま自分の価値を見出せずにもがく人物像を表していて、胸に迫りました。
また、給金20円という当時としては破格の条件が示されることで、トキが背負ってきた家の事情とその中での決断の重さが視聴者にも伝わってきました。
嘘をつきながらも守ろうとする想いが切ない
トキが家族には「旅館の手伝い」と言いながら、実際は女中として働きだしたという嘘。さらに給金の一部を、三之丞へ「傅おじ様から預かったお金だ」と偽って渡す場面では、「自分が苦しくとも誰かを救いたい」という彼女の優しさが滲んでいて、切なさが胸に残りました。嘘の連鎖とそれを続ける決意が、物語に深みを与えていました。
気になった/もう少し欲しかった部分
ヘブンの拒絶・基準に対する描写が短く感じた
ヘブンが「士族の娘でなければならない」という価値観を持っていることは描かれていましたが、その背景や“なぜその基準を持つか”という描写がもう少しあれば、トキの拒絶から採用までの転換の説得力がさらに増したと思います。視聴者としては「この人(ヘブン)は何を求めているのか」という部分をもう少し知りたかったです。
嘘をつく展開の心理描写が駆け足気味
トキが家族に言えずに嘘をつく流れ、その後に三之丞へお金を渡す動機と心情など、“なぜそのタイミングでその行動を選んだか”という内的な揺れがもう少し丁寧に描かれていたら、より感情移入しやすかったと感じました。
感想まとめ
第31回は、トキの人生における大きな転機が描かれた回でした。女中という仕事を選ぶことで“自分の価値”や“家族との関係”を見つめ直すことになり、同時に嘘という選択を余儀なくされる。そのギャップと痛みが丁寧に描かれていて、視聴者として深く引き込まれました。
また、ヘブンという“異文化”の存在に対するトキの覚悟や、没落士族という状況のリアルさが交錯するシーンは、「この時代を生きるとは何か」を静かに問いかけてきました。
ただ、一方で物語の中核となる“士族の娘”“女中”“給金20円”という要素の背後にある社会的・歴史的な背景が少し控えめだったため、もう少し丁寧に掘り下げられるとさらに重みが増すと思います。
今後への期待と考察
次に注目したいのは、トキが女中として働き始めた後の“関係性”の変化です。
– ヘブンとの距離はいかに縮まるか。単なる雇用関係を超えて、どう“信頼”や“理解”が生まれるのか。
– トキが背負った嘘がいつ誰にバレるのか。そしてそのとき、どんな選択をするのか。
– 給金の一部を三之丞へ渡したことで生まれた“依存”あるいは“恩”の関係がどう発展するか。
このドラマは、軽やかな“怪談”や“日常”の中に、家族・階級・異文化など多様なテーマを織り込んでいます。第31回は、その問いがより顕在化した回だったと思います。
(あいちゃん)

