第43回は、心の奥を静かに締めつける回だった。
蔦屋重三郎(横浜流星さん)と喜多川歌麿(染谷将太さん)の関係が、ようやく言葉にならないまま壊れていく。
タイトルの「裏切りの恋歌」、もう最初から胸がざわつく予感しかなかったけど、見終わったあと“恋”も“裏切り”も、どちらも正しかったんだと思わされた。
友情でもなく、恋でもなく、その間にあるような切なさが痛いほどに残る。
恋を描いたのは「誰のためでもなく、自分のため」
蔦重(横浜流星さん)が吉原への借金返済のために、歌麿(染谷将太さん)へ五十枚の女郎絵を描かせる。
町を歩く歌麿が女性を見つめるたびに、蔦重は「いい女探してるんだろ」と軽く茶化すけど、歌麿の目が見ているのは“愛”じゃなく“感情の表情”だった。
彼が描こうとしていたのは、恋に揺れる人間の顔そのもの。
その視線に蔦重が気づかないのが、もう切なすぎた。
「俺が恋をしていたからさ」と絵の理由を打ち明ける歌麿の声、穏やかなのに胸の奥が震える。
「組まない」と告げた瞬間、二人の時間が止まった
「俺、蔦重とは、もう組まない」
この言葉、たった一行なのに、20年分の想いが崩れ落ちた音がした。
歌麿は絵に自分の印より蔦屋の印が大きく押されることにずっと納得できずにいた。
でもそれ以上に、「お前のため」と言いながら自分を見てくれない蔦重に、どうしようもなく傷ついていたんだと思う。
“恋”って気づかれないまま終わると、こういう静かな悲しみになるんだと痛感した。
座る位置を少しずらすだけで距離を表現した染谷将太さん、演技が細やかすぎて鳥肌だった。
「おていさんと子を大事に」——最後の優しさが痛い
別れ際の歌麿の言葉、「おていさんと子、とびきり大事にしてやれよ」。
これが本当の“愛してる”なんじゃないかと思った。
自分の気持ちを伝えないまま、相手の幸せだけを願うって残酷すぎる。
でも、その一言に歌麿の誠実さと、どうしようもない愛情が詰まってた。
蔦重が残した「二十年、俺についてきてくれてありがとな」という手紙。
そこにも“気づかない優しさ”が滲んでいて、読んだ瞬間、涙があふれた。
サブタイトル「裏切りの恋歌」が完璧すぎた
“裏切り”という言葉は冷たいのに、“恋歌”という響きがやさしい。
蔦重から見れば、歌麿が他の本屋と組もうとしたのは裏切り。
でも歌麿から見れば、蔦重が自分の心を見ないまま突き進むことこそ“裏切り”。
二人の立場が交錯して、どちらも正しくてどちらも哀しい。
SNSでも「タイトルの意味が深すぎる」「恋と裏切りが重なるのエグい」「森下佳子さんの言葉選びが神」って反響が続出。
一つの言葉でここまで物語を包み込むの、ほんとに見事だった。
物語は終盤へ、さらに待つ“痛み”の予感
最後、蔦重の妻・てい(橋本愛さん)が早産に迫られる。
「産んじまうしかない」という産婆の言葉が、まるで蔦重の人生そのものを象徴してるようだった。
次の瞬間に何かが壊れてしまいそうな静けさ。
あと5話しかないのが信じられない。
この先、蔦重がどんな“終幕”を迎えるのか、怖いほど楽しみでもある。
まとめ
第43回は、“愛されない恋の終わり”をこんなにも美しく描いた傑作回。
蔦屋重三郎(横浜流星さん)と喜多川歌麿(染谷将太さん)の間に流れた時間が、すべて尊かった。
伝わらなかった想いも、届かないままの優しさも、全部が「裏切りの恋歌」。
このタイトルに、すべてが詰まっていた。
終わりが近づくほどに、蔦重の人生が光って見える。
涙でぼやけた画面の向こうに、“江戸の夢”がまだ息づいていた。
(ゆめのん)

