ばけばけ 第30回 感想文(ネタバレがあります)― 引っ越しと女中、そして帰らぬ母の影

本ページはプロモーションが含まれています

借家引っ越しと“女中決まらぬ”焦り

第30回を観てまず印象に残ったのは、ヘブン(トミー・バストウ)が錦織(吉沢亮)とともに借家へ引っ越したという新たな生活の幕開けです。新居に満足げなヘブンでしたが、女中がまだ決まらないことに苛立ちを見せるシーンが、その安心感の裏にある“社会的な立場”や“役割”の重みを示していて胸に残りました。家を手に入れても、そこには“仕える人”“働く人”という構図がまだ不可避であるという時代背景が感じられます。

母・タエと再会する三之丞、そしてトキの目線

一方で、トキ(髙石あかり)は三之丞(板垣李光人)と再会し、松江を離れたはずのタエ(北川景子)と三之丞が戻ってきた経緯を聞きます。その帰り道、トキが街で物乞いをするタエの姿を再び目撃するシーンは、視聴者として衝撃と哀しさが同時に襲ってきました。母がかつての権威を失い、街に佇む――その姿をトキがどう受け止めるのか、トキ自身の決意や覚悟が問われているように感じました。

良かったこと

時代の変化と家族の記憶の交錯

この回では、外国人教師のヘブンを迎え入れる家という“新しい価値観”と、物乞いとなったタエという“旧時代の終わり”が同時に描かれ、時代がひとつの転換点にあることを静かに示していたと思います。ヘブンの引っ越しという華やかな動きの中に、トキやタエの揺れた歴史が影を落としていて、朝ドラとしての深みを感じました。

トキの視線に宿る覚悟と哀しみ

特に印象的だったのは、タエを見かけたトキの表情の変化です。物乞いをする母を前に、トキが“見なかったふり”をするのではなく、“見つめる”ことを選ぶ瞬間に強い意思を感じました。それは“女中になります”という決意ともリンクしており、トキがただ受動的に生きる人ではなく、自ら動く人になる覚悟が示されたと思います。

気になった・もう少し欲しかった部分

ヘブンと錦織の新生活描写が少し速かった

引っ越しという大きな転機が描かれていた一方で、新生活の中での細かな変化(周囲の反応、家事や社会的立場の変化など)が少し駆け足に感じられました。女中が決まらない苛立ちの前振りとしての描写は効果的でしたが、新居に馴染んでいく過程がもう少し丁寧だと、ヘブン&錦織の物語により感情移入できたかもしれません。

タエの変貌の背景説明がやや回想頼りに感じた

タエが物乞いとなったという現実が強烈ですが、その変化のプロセスに関して視聴者として「なぜそこまで落ちたのか?」という疑問が湧きました。回想シーンや語られる過去の断片はありますが、もう少しタエの人生の転機や心情の揺れを丁寧に見せてほしかったという思いがあります。

感想まとめ

第30回は、引っ越しという“動”と母・タエの“停”が対照的に描かれた回でした。ヘブンという新しい風、トキの決意、そしてタエという過去の影――それぞれが異なる方向を向きながらも同じ時間軸の中で交錯しており、物語に厚みを与えていました。トキの覚悟が明確になった一方で、タエの姿がもたらした衝撃が強く、視聴者として胸に残る場面が多くありました。

ただ、物語の動きが多かった分、一つひとつの変化をもっとじっくり味わいたかったとも思います。しかしながら、「女中になります」というタイトルにふさわしく、トキが果たすべき役割と、家・働く・家族というテーマがしっかり提示された回だったと感じました。

今後への期待と考察

次回以降、まず注目したいのは、トキが“女中になる”という決断をどう具体化するか、そしてその過程で母・タエとの関係がどう交錯していくかです。また、ヘブンと錦織の新居がトキの人生にどう影響を与えるかも見逃せません。
さらに、三之丞とタエの帰還が意味するもの――過去と現在の融合がどのように展開していくのか、物語の核心が近づいている予感があります。
このドラマは、ただ時代を描くものではなく、「家とは何か」「働くとは何か」「帰るべき場所とは何か」を、朝のひとときに静かに問いかけてくれています。第30回は、その問いが一段と鋭くなった回だったと思います。
(あいちゃん)

「ばけばけ」の関連グッズを楽天ブックスで探す
「ばけばけ」の関連グッズをAmazonで探す