おウメさんの励ましと、トキの胸の中の葛藤
この回では、トキ(髙石あかり)が トミー・バストウ演じるヘブンの家で女中として初日を迎える場面が描かれます。自分が「ラシャメンかもしれない」という秘密を抱え、家族にも言えずに新しい職場へ向かうトキの背中に、旅館「花田旅館」の面々・平太(生瀬勝久)、ツル(池谷のぶえ)、ウメ(野内まる)が見守りの手を差し伸べる。特にウメが「一緒に働こう」「2人きりにならないようにするよ」と同行を申し出る場面は、トキにとって大きな支えになっていました。
しかしその背後には、未知の環境、新しい立場、そして“外国人夫”ヘブンとの関係という、トキの内面に高まる緊張と恐怖も静かに描かれていて、物語はただ始まりの一歩を祝うだけではなく、踏み込む勇気を問う回になっていました。
良かったこと
移行期のリアリティがよく出ていた
トキがこれまで慣れ親しんだ旅館という場所から、未知の“家中”という環境へ移る様子が、視覚的・心理的にも丁寧に描かれていました。朝出勤のシーンでの「新しい朝」「見慣れぬ家の佇まい」「自分だけの覚悟」という細部の演出が、視聴者に「トキの立場が変わった」という実感を与えてくれました。
また、ウメらがトキを温かく迎える一方で、トキ自身の内面では「私に務まるだろうか」「家族にも言えない」という葛藤が顔を出しており、単純な“応援ドラマ”ではなく“変化を伴った成長ドラマ”として一歩踏み込んだ印象を受けました。
緊張と安心のコントラストが効果的
「女中初日」というテーマからくる緊張感、その中でウメらの応援という“安心”の要素が並走していたのが良かったです。特に、トキが布団を握りしめてヘブン邸に向かう場面など、「恐怖だけではない」「励ましもある」という構図が視聴者の感情を揺さぶりました。記事でも「ヘブン邸に放置されたトキ、布団を前に緊張感マックス」という表現が用いられています。
気になった・もう少し欲しかった部分
ラシャメンである可能性とその意味の掘り下げが浅め
トキが「自分がラシャメンかもしれない」という秘密を抱えている設定は非常に興味深く、物語に深みを与える鍵になりそうです。ただ、第32回ではその可能性自体が提示される段階に留まっており、「ラシャメンであるかどうか」「それが生活・仕事にどう影響するか」という部分の掘り下げが少し先送りされている印象です。今後の展開でこの要素がどう活かされるかに期待したいです。
ヘブンというキャラクターの距離感がまだ読みにくい
トキがヘブン邸に初出勤するという設定上、ヘブン自身の人柄・価値観・トキとの関係性も物語の重要な軸になるはずですが、この回ではまだ“何となく怖い”“緊張する存在”としての印象が強く、「なぜトキをこの家に迎えたのか」「ヘブンの家庭・背景」がもう少し見えていると、トキの覚悟の意味もより鮮明になったと思います。
感想まとめ
第32回は、トキにとって「変わりゆく日常の入口」に立つ回だったと思います。旅館という慣れた場所を離れ、未知の家庭での仕事に挑む“女中初日”という設定が、視聴者にも「新しい章が始まる」という感覚をもたらしてくれました。
応援してくれる仲間がいるという安心と、それでも自分一人で受け止めなければならない恐怖とが共存していて、「成長には痛みも伴う」というテーマが静かに響いてきました。
まだ物語の核心には達していないけれど、この回が「トキの覚悟を本格的に問う回」だったと感じます。
今後への期待と考察
– トキが「ラシャメンかもしれない」という秘密を、女中としての立場・仕事・人間関係にどう影響させるか。
– ヘブンというキャラクターと家のあり方、トキとの距離感が今後どう変わるか。
– 花田旅館の面々(平太・ツル・ウメ)が、引き続きトキを支える中で、それぞれがどんな役割を果たすか。
– トキが初日を終えた後、「覚悟を持って働くこと」「家庭と職業の狭間で揺れること」をどう乗り越えていくか。
このドラマは、明治時代の社会背景を持ちながら、個人の覚悟・異文化・立場の変化というテーマを描いていて、トキの一歩がどこまで羽ばたくのかがとても楽しみです。第32回はその重要な起点となった回でした。
(あいちゃん)

