シナントロープ 第5話「空を飛べたらいいのに」 感想文(ネタバレがあります)― 言葉の隙間と、飛べない想いの行方

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沈んだ帳簿と、眠る水町の隙間

今回、まず気になったのは、冒頭のシーンでアルバイトの水町(山田杏奈)が店に帳簿を広げたままうたた寝している姿。しかも「家に帰らず、大学にも行けていないらしい」という状況がほのめかされる。これは彼女の「隠された日常」が崩れ始めた瞬間だと感じました。
その水町に対して、都成(水上恒司)が「ランチに誘おう」と思い立つシーン。志沢(萩原護)のメモを頼りに会話を盛り上げようとするけれど、それがかえってギクシャクを生んでしまう。水町に「訊きたいことがあれば直接訊けばいいじゃん」と言われてしまう瞬間に、都成と水町の間にある「距離」と「不信」が浮き上がります。

良かったこと

言葉にならない“ズレ”を見せてくれた

この回は、言葉よりも「言葉の隙間」「問いかけられない問い」がテーマになっていたと思います。都成の気遣いが裏目に出ることで、むしろ沈黙の方が大きく響く。その静かなズレが、「飛べない想い」「届かない距離感」を象徴していて、ドラマとして非常に惹かれました。
特に水町が都成を「志沢を使って自分の周りを嗅ぎ回ってる」と見抜く場面は鮮やかで、「観察される側」の苛立ちと「観察しようとする側」の焦りが同時に伝わってきました。

過去の影がにじむ構造が効いている

この5話では、水町の過去が少しだけ示唆されました(5歳の頃に家に閉じ込められていたなどのエピソード)。それが唐突ではなく、「今」の姿とリンクして提示されたことで、彼女の生きづらさが静かに、しかし確実に深まります。過去が現在を動かす構図になっていて、物語の厚みを感じました。

気になった・もう少し欲しかった部分

都成の変化がやや控えめに感じた

都成は冒頭から水町を気にかける存在として描かれていますが、水町の告白も含めて彼がどう心を動かしていくのか、その“変化”がもう少し強く描かれていたら、より感情移入できたように思います。
水町の過去が明らかになるあたりで、都成がどう応えるか、そのアクションがもう少し欲しい。今は“距離がズレている”という状態が鮮明ですが、“その先”に進みそうな意志が少し弱かったかなと感じました。

多くの伏線が動き出した分、焦点がぶれそうな瞬間も

この5話では、水町の過去、店の人間関係、ライブイベント、裏組織的な何か…と要素が次々と出てきます。魅力的な展開ではありますが、観ていて「この部分をもっと知りたい」「ここの描写が浅いかもしれない」という思いも出ました。欲張りな言い方ですが、もう少しひとつひとつの“ズレ”に時間を割いてくれたらと感じる場面もありました。

感想まとめ

第5話で改めて感じたのは、「飛べないという自覚」が登場人物たちに共通しているということ。水町は家にも大学にも帰れず、都成との距離を測れず、水町自身の過去が影を落とす。都成はその距離に気づきつつも、どう橋をかけていいのかわからない。
店「シナントロープ」という場が、小さなハンバーガーショップというシンプルな舞台でありながら、そこに集まる若者たちの“隙間”や“ズレ”が浮かび上がるという設計が素晴らしい。言葉ではなく沈黙、観察ではなく対話、そして“飛べなかった過去”が今を揺らす――そんな物語に引き込まれました。

今後への期待と考察

次回以降、注目したいのは水町の過去がもっと明らかになること。そして、その過去を都成がどう受け止めるのか。さらに、志沢や塚田、裏で動くと思われる“組織”の存在がどう絡んでくるのかも気になります。
「空を飛べたらいいのに」というタイトルが象徴するように、彼らが“飛びたくても飛べない”理由をどう乗り越えていくのか、そのプロセスに期待したいです。
このドラマは、ただの青春群像ではなく、「距離」「隙間」「観察と対話」のドラマだと思います。第5話は、そのテーマをぐっと前に押し出した、重要な回だったと感じました。
(あいちゃん)

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