裏取引に潜む“信念”と“焦り”
第3話では、加奈子(松本若菜)が父・剛史(木場勝己)のこだわる「庭先取引」という取引形態に頭を抱え、牧場経営の先行きに不安を募らせる姿が緊張感を帯びて描かれました。セリ市を介さずに馬主と直接交渉する剛史のやり方には、伝統への誇りや“自分で勝負する”という意地がある一方で、毎回馬主を怒らせては取引が決裂するという現実もあります。この“こだわり”が、加奈子の葛藤の核心です。
良かったこと
取引背景のリアリティと人物描写
馬産・競馬というやや専門的な世界を舞台にしながら、「伝統か革新か」「信頼か利潤か」というテーマを人物の感情を通じて描いていた点が好印象でした。加奈子の困惑や、剛史の固執、そしてその間で揺れる牧場の風景――これらがリアルに響きました。また、栗須(妻夫木聡)と山王耕造(佐藤浩市)が、〈未勝利戦を勝った馬〉で歓喜する一方、その馬もケガに見舞われるという展開で、「勝利の裏にあるリスク」が明確になったのもドラマとしての深みを増していました。
ライバルの存在感と競争構図の構築
北陵ファームのセリに賭けるという大きな賭けに対し、ライバルである椎名(沢村一樹)が同じ馬を狙っていたという設定は、ストーリーに厚みを与えていました。単に“馬を買う”という話ではなく、どの馬を、誰が、どの戦略で狙うか――という駆け引きが見えてきて、視聴者としても「次どう出る?」という期待が高まりました。
気になった・もう少し掘ってほしかった部分
加奈子の視点の深さがもうひと押し欲しい
加奈子の「父との関係」「牧場継承者としてのプレッシャー」といった要素がきちんと提示されているものの、第3話時点ではその背景がやや薄く、視聴者として感情移入するにはもう少し「なぜ剛史は庭先取引にこだわるのか」「加奈子はなぜそれを変えたいと願うのか」といった部分の掘り下げがあると、彼女の行動や葛藤がもっと胸に来たと思います。
競馬業界の専門用語・制度の説明が控えめ
セリ市、庭先取引、未勝利戦、といった競馬・馬産地の専門用語が多く登場するため、「競馬に詳しくない人」にとっては少し入りづらさを感じる場面もありました。ドラマとして物語を楽しむ上では人物ドラマが十分働いていましたが、もう少しだけ「庭先取引って何?」「なぜそれが問題?」という説明があったら、よりスムーズだったと思います。
感想まとめ
第3話は、馬産・競馬という独特な舞台を使いながらも、「継承/革新」「信頼/損失」という普遍的なテーマを丁寧に描いた回だと思います。加奈子の苦悩、剛史の執念、栗須たちの挑戦、椎名の対抗――それぞれの思惑が蹄跡を残しながら交差していきました。馬の勝利を夢見る華やかな世界と、その裏に潜む取引・怪我・競争の厳しさ。この二面性が、本作の魅力を改めて感じさせてくれました。
特に印象的だったのは、「選ぶ馬=選ばれる人」という構図です。馬を手に入れるという行為が、企業の名声、個人の野望、牧場の将来を左右するという視点で描かれており、単なる“競馬ドラマ”を超えた重みを感じました。
次回への期待と考察
次回は、椎名と栗須/耕造の争いがもっと加速しそうです。そして、加奈子と剛史の関係の“決裂”または“和解”がどう描かれるかも大きな山場だと思います。また、イザーニャとファイトという馬そのものがケガを負ったという事実から、「馬を買えば勝てる」という単純な勝利論が通用しない世界であることが改めて浮かびました。馬を“作る”、馬を“探す”、馬を“買う”、そのプロセスの一つ一つにドラマがある――次回以降もその部分に注目したいです。
このドラマは、競馬という舞台を借りつつも、人間ドラマ・組織ドラマとしても豊かに描かれています。第3話は、その広がりを見せ始めた重要な回だと思います。
(あいちゃん)

